2025年7月13日、ニューヨークのルイ・アームストロング・スタジアムで開催される
「Ring Magazine 3」は、世界ボクシング界にとって極めて重要な興行となります。
この大会では、WBC世界ライト級王者シャクール・スティーブンソンの防衛戦
日本の新鋭・堤麗斗の海外2戦目が同じカードで組まれており
両選手のキャリアにとって大きな転換点となる可能性があります。
アスレティックトレーナーとして8年間、様々なレベルの格闘技選手をサポートしてきた経験から
この両試合が持つ競技的・戦略的意味について詳しく分析していきます。
単なる試合予想ではなく、選手の身体的特徴、技術的成長
そして長期的なキャリア戦略の観点から両選手の次戦を解剖します。
シャクール・スティーブンソン vs ウィリアム・セペダ:技術対圧力の究極マッチアップ

試合の基本情報と両選手の特徴
シャクール・スティーブンソン(27歳、23戦全勝11KO)は
現在のボクシング界で最も洗練された技術を持つ選手の一人です。
身長173cm、リーチ178cmの体格を活かしたアウトボクシングで、3階級制覇を達成した実績があります。
対するウィリアム・「エル・カマロン」・セペダ(28歳、33戦全勝27KO)は
驚異的な82%のKO率を誇るメキシコの圧力系ファイター。
身長170cmながら、絶え間ない前進とボディワークで相手を追い詰めるスタイルが特徴です。
私がトレーナーとして注目しているのは、この対戦における「エネルギー効率」の違いです。
スティーブンソンは最小限の動きで最大の効果を生み出すアウトボクシングの完成形とも言える選手である
一方、セペダは常に高い運動強度を維持し続ける持久力型のファイターです。
戦術的分析:カウンター vs プレッシャー
スティーブンソンの最大の武器は、相手の攻撃をかわしながら的確なカウンターを決める技術にあります。
特に左ジャブからの展開と、距離感の調整能力は現役ライト級でもトップクラスです。
今年2月のジョシュ・パドリー戦では、9ラウンドTKOで勝利を収めましたが
この試合で見せた冷静なリング裁きは、技術面での更なる進化を感じさせるものでした。
一方のセペダは、元IBF王者テビン・ファーマーとの2戦(2024年11月と2025年4月)で
見せた圧倒的なプレッシャーが印象的です。
特に2戦目では、ファーマーを完全に後退させ、ロープ際での連打で圧倒しました。
セペダの強みは単純な前進ではなく、相手の逃げ道を計算した上でのプレッシャーにあります。
筆者の独自考察:身体的要素から見た勝敗の鍵
アスレティックトレーナーとしての観点から、この試合で最も注目しているのは「スタミナ配分」です。
スティーブンソンは効率的な動きで体力を温存しながら戦える選手ですが、セペダのような持続的なプレッシャーに対して、どこまで適切なスタミナ配分を維持できるかが勝負の分かれ目になると考えます。
個人的に、この対戦はWBCライト級における事実上の王座統一戦として最も楽しみにしているカードです。
ライト級は現在のボクシング界で1、2を争う激戦区ですが、その中でもスティーブンソンのボクシングIQ、フットワーク、総合的なボクシングスキルは他の追随を許さないレベルに達していると感じています。
正直なところ、現在のスティーブンソンが負ける姿を想像することは困難です。
実際に、過去の技術系ボクサーがプレッシャーファイターに苦戦するケースを見ると
序盤3ラウンドでの心理的優位性の確立が極めて重要です。
スティーブンソンがジャブとフットワークで主導権を握れれば技術の差で押し切れるでしょうが
セペダが序盤から有効なボディブローを当てることができれば、試合の流れは大きく変わる可能性があります。
また、セペダの27KOという数字は単なる統計以上の意味を持ちます。
これは相手を「削る」能力に長けていることを示しており
ラウンドが進むにつれてダメージが蓄積される可能性が高いのです。
スティーブンソンにとっては、いかに被弾を最小限に抑えながら自分のリズムを維持できるかが最大の課題となります。
堤麗斗 vs エリック・ハンリー:日本の至宝が海外で証明すべきもの
堤麗斗の現在地と成長ポイント
22歳の堤麗斗は、アマチュア時代に世界ユース王者を含む9冠を達成した逸材です。
身長165cmと決して大柄ではありませんが、サウスポーから繰り出される鋭い左ストレートと、相手をロープ際に追い込む圧力は既にプロレベルに達していると評価できます。
5月のプロデビュー戦(ニューヨーク・タイムズスクエア)では
粘る相手に対して終始主導権を握り、3-0の判定勝利を収めました。
この試合で特に印象的だったのは、相手との距離感の調整と、左ストレートのタイミングの精度です。
マイク・タイソン氏から「ワンダフル」と称賛されたのも、単なるパンチ力だけでなく
総合的なボクシングセンスが評価されたものと理解しています。
対戦相手ハンリーの分析と試合展開予想
エリック・ハンリー(31歳、3戦1勝2敗1KO)は、戦績だけを見れば堤にとって格下の相手です。
しかし、身長173cmという8cmのリーチ差は、特に海外での試合経験が少ない若手選手にとっては大きな障壁となり得ます。
ハンリーは2022年のプロデビュー戦で初回TKO負けを喫していますが、2024年にはKO勝利も記録しており、一定のパンチ力を有しています。また、最近のジャボン・ウォルトン戦では判定まで持ち込む粘り強さも見せており、決して侮れない相手です。
筆者の独自考察:階級アップと海外適応の重要性
今回の試合で私が最も注目しているのは
堤がデビュー戦に続き再びスーパーフェザー級(59kg)で戦うという判断です。
一般的に、プロ転向直後の階級アップは身体的な負担が大きく
パンチ力の分散やスタミナ配分に影響を与える可能性があります。
しかし、堤の場合はアマチュア時代から複数の階級で実績を残しており
身体の成長期にある22歳という年齢を考慮すると、むしろ自然な選択と言えるでしょう。
実際に、デビュー戦での動きを見る限り、59kg契約でも十分なパワーとスピードを維持できていると評価できます。
堤麗斗という選手は、日本人ボクサーとして本当に異例中の異例の存在です。
5月3日のニューヨーク・タイムズスクエアでの試合に続き、今回も同じニューヨークで戦う日本人ボクサーは過去に例がありません。これは単なる偶然ではなく、世界のボクシング界から如何に注目されている選手かの証明だと考えています。
海外での試合経験という観点では、堤にとって今回が真の試金石となります。
デビュー戦のタイムズスクエアは特設リングでの特殊な環境でしたが、今回のルイ・アームストロング・スタジアムは正統派のボクシング会場での戦いです。観客の雰囲気、リングサイズ、照明など、全ての環境が日本とは異なる中で、いかに普段通りのパフォーマンスを発揮できるかが重要になります。
前回のデビュー戦では、やはり初戦ということもあり、若干の硬さが見受けられました。
しかし、今回は2戦目ということで、より自然体でのボクシングが期待できます。
個人的には、今回こそ堤の持つ爆発力を存分に発揮した豪快なKO勝利を期待したいと思います。
また、Ring誌とのブランドアンバサダー契約という背景も考慮すべき要素です。
これは単なるスポンサー契約以上の意味を持ち、堤が世界的なボクシング媒体から将来性を認められていることを示しています。この期待に応えるためにも、今回の試合では圧倒的な勝利が求められるでしょう。
Ring Magazine 3興行全体が持つ意味と両選手への影響
興行の規模と質が選手に与える影響
Ring Magazine 3は、単一興行として3つの世界タイトルマッチが組まれる極めて豪華なカードです。
メインのベルランガ vs シーラズ(WBC世界スーパーミドル級挑戦者決定戦)、プエヨ vs マティアス(WBC世界スーパーライト級タイトルマッチ)、そしてモレル vs ハタエフ(ライトヘビー級10回戦)という世界レベルの試合と同じカードに名を連ねることは、両選手にとって大きな意味を持ちます。
特に堤にとっては、プロ2戦目でこれほどの大舞台に立てることは異例中の異例です。
通常、日本人選手が海外の大興行に参加するには数年の実績積み重ねが必要ですが、
堤の場合はアマチュア実績とRing誌との契約により、早期からトップレベルの環境に身を置くことができています。
筆者の独自考察:大舞台が選手に与える心理的影響
アスレティックトレーナーとして多くの選手の大一番をサポートしてきた経験から
このような大興行が選手に与える影響は計り知れないものがあります。
特に若手選手の場合、普段とは異なる環境や注目度により、実力を発揮できないケースも少なくありません。
しかし、堤に関しては楽観的に見ています。
アマチュア時代から世界大会での優勝経験があり、大舞台での経験値は同世代の選手と比較して圧倒的に豊富です。
また、デビュー戦でのタイムズスクエアという異例の環境でも
冷静にボクシングができていたことから、環境の変化に対する適応能力は高いと評価できます。
一方のスティーブンソンは、既に多くの大舞台を経験していますが
今回の相手セペダは過去に対戦したタイプとは明らかに異なります。
技術で勝る相手との駆け引きには慣れていても、純粋な圧力とパワーで押してくる相手に対してどのような対応を見せるかは非常に興味深いポイントです。
DAZN独占生中継という配信形態も、両試合に特別な意味を与えています。
世界中のボクシングファンがリアルタイムで観戦する中で、両選手がどのようなパフォーマンスを見せるかは
今後のキャリアに大きな影響を与えることになるでしょう。
まとめ:7月13日が両選手に与える意味
2025年7月13日のRing Magazine 3は、シャクール・スティーブンソンと堤麗斗という
異なるキャリアステージにある二人の選手にとって、それぞれ重要な意味を持つ大会となります。
スティーブンソンにとっては、純粋な技術だけでなく、プレッシャーファイターに対する適応能力を試される機会です。
この試合に勝利することで、ガーボンタ・デイビスなどの他団体との統一戦への道筋が見えてくるでしょう。
逆に苦戦するようであれば、今後のマッチメイクに大きな影響を与える可能性があります。
堤麗斗については、海外での継続的な活動基盤を築く上で極めて重要な一戦です。
圧倒的な勝利を収めることができれば、次戦以降もより格上の相手との対戦機会が期待できます。
また、P4P No.1という壮大な目標に向けて、着実なステップアップを示す必要があります。
アスレティックトレーナーとしての経験から言えることは、
両選手ともに身体的なコンディションは申し分なく、あとは試合当日にいかに普段通りのパフォーマンスを発揮できるかにかかっているということです。特に堤については、海外での2戦目という経験値の少なさを、持ち前の集中力と技術でカバーできるかが見どころとなります。
7月13日の朝、日本のボクシングファンにとって特別な一日となることは間違いありません。
両選手の戦いぶりを通して、現代ボクシングの技術的進歩と、日本人選手の国際的な可能性を改めて実感できる機会となるでしょう。
関連記事
執筆者情報

エビ(Ebi LIFE | えびちゃんの気ままライフ 運営)
- ウイスキー・ゲーム・スポーツ観戦愛好家
- 日本スポーツ協会アスレティックトレーナー
- 健康運動指導士
- トレーナー歴8年(整形外科5年、大学トレーニングジム5年、チームトレーナー4年)
コメント