「子供がサッカーで膝を痛めたけど、病院と整骨院、どちらに行けばいいのだろう?」
「ランニング中に足首を捻挫した時の正しい受診先は?」
このような疑問を抱いたことがある方は多いのではないでしょうか。
私は日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナーおよび健康運動指導士として8年間現場に携わり
整形外科で5年、大学のトレーニングジムで5年間勤務してきました。
また、少年サッカーチームや社会人ラグビーチームでのトレーナー活動を通じて
数多くのスポーツ傷害に対応してきた経験があります。
現在は5歳の娘と4歳の息子を持つ父親として、子供のスポーツ活動における怪我のリスクも身近に感じています。
こうした立場から、病院と整骨院・鍼灸院の違いについて、法的根拠に基づきながら実践的な視点でお伝えします。
診断権の有無が決定的な違い
医師のみが持つ診断権の重要性
整形外科で5年間勤務していた経験から、私が最も強調したいのは「診断権」の重要性です。
医師法第17条により、医師のみが疾患の診断を行うことができます。
これは単なる法的な取り決めではなく、患者さんの安全を守るための重要な仕組みです。
整形外科勤務時代に印象深い事例がありました。
ある患者さんが「整骨院で2週間治療を受けているが痛みが引かない」として来院されました。
問診と触診だけでは単なる捻挫のように見えましたが、MRI検査を実施したところ、実は靱帯の部分断裂が判明したのです。適切な診断により、手術は回避できましたが、装具固定と段階的なリハビリテーションが必要な状態でした。
もしこのまま診断がつかないまま施術を続けていたら、靱帯の完全断裂に至り、最終的に手術が必要になっていた可能性があります。この経験から、急性外傷を受けた際は、まず医師による正確な診断を受けることの重要性を強く実感しました。
各職種の専門性と限界
医師以外の国家資格者(理学療法士、柔道整復師、鍼灸師)は
それぞれ高度な専門技術を持っていますが、診断権はありません。
これは決して能力の問題ではなく、法的な役割分担として明確に定められています。
柔道整復師は骨折・脱臼の整復技術において非常に高い技術を持っています。
私が連携していた整骨院の先生は、触診だけで骨折の有無をかなり正確に判断される経験豊富な方でした。
しかし、法的には「○○骨折の疑い」として医師の診断を仰ぐ必要があります。
これは医療安全の観点から非常に重要な仕組みです。
見た目には軽微に見える外傷でも、画像診断により重篤な損傷が発見されることは決して珍しくありません。
リハビリテーションの選択肢とそれぞれの特徴
病院でのリハビリテーション
理学療法士・作業療法士による専門的リハビリ
病院でのリハビリテーションは、医師の診断に基づき理学療法士(PT)や作業療法士(OT)が実施します。
これらの専門職は3〜4年間の大学教育を受け、解剖学、生理学、運動学などの基礎医学を修得した国家資格者です。
メリット
- 医師の診断に基づいた科学的根拠のあるプログラム
- 最新の医療機器を使用した物理療法
- 段階的で体系的な機能回復プログラム
- 他の医療職種との連携による包括的ケア
- 保険適用により経済的負担が軽減
デメリット
- 予約制のため通院の自由度が低い
- 1回の治療時間が決められている(通常20分程度)
- 機能回復重視で、症状の緩和に時間がかかる場合がある
私が勤務していた整形外科では、前十字靱帯再建術後の患者さんに対し
術後段階的なリハビリプログラムを実施していました。
理学療法士が筋力測定や関節可動域測定を定期的に行い
客観的データに基づいて運動負荷を調整していく様子は、まさに科学的アプローチの真骨頂でした。
整骨院での治療
柔道整復師による後療法
整骨院では、急性期を過ぎた外傷に対して「後療法」と呼ばれるリハビリテーションを実施します。
手技療法を中心とした人の手による温かみのある治療が特徴です。
メリット
- 予約不要で通院の自由度が高い
- 手技療法による個別性の高い治療
- 1回の治療時間が比較的長い
- アットホームな雰囲気でリラックスして治療を受けられる
- 地域密着型で通院しやすい
デメリット
- 医師の診断なしには保険適用に制限がある
- 科学的評価指標が病院ほど充実していない
- 重篤な合併症の早期発見が困難な場合がある
- 施術者によって技術レベルに差がある
大学ジムで連携していた整骨院では、足首捻挫後の学生に対し
丁寧な手技療法により腫脹を軽減し、テーピングによる段階的な競技復帰プログラムを実施されていました。
理学療法とは異なるアプローチでしたが、選手のコンディションに合わせた柔軟な対応は非常に参考になりました。
鍼灸院での治療やケア
東洋医学的アプローチによる症状改善
鍼灸院では、西洋医学とは異なる東洋医学の理論に基づいたアプローチで症状の改善を図ります。
メリット
- 薬物を使わない自然療法
- 全身の調整による根本的な体質改善
- 慢性症状に対する独特な効果
- 副作用が少ない
- リラクゼーション効果も期待できる
デメリット
- 基本的に自費診療で費用が高額
- 効果に個人差が大きい
- 急性期の外傷には適さない
- 感染リスクの管理が重要
- 科学的根拠が西洋医学ほど確立されていない
私の妻が、慢性的な腰痛で鍼灸治療を受けた経験があります。
整形外科での検査では特に異常がなく、理学療法でも改善しなかった症状が、鍼灸治療により軽減されました。
ただし、これは整形外科で器質的疾患がないことを確認した上での選択でした。
医療連携の重要性と私の考え
各職種が手を取り合う治療の実現
8年間の現場経験を通じて強く感じるのは、どの職種も患者さんのために存在しているということです。
医師、理学療法士、柔道整復師、鍼灸師は、それぞれ異なる専門性を持っており、互いに補完し合える関係にあります。
重要なのは「患者さんを独占する」という発想ではなく、各職種が専門性を活かして連携することです。
私が理想とする治療の流れは以下のようなものです:
- 急性期:医師による正確な診断と初期治療
- 回復期:医師の指示のもと、理学療法士によるリハビリテーションまたは柔道整復師による後療法
- 維持期:症状に応じて鍼灸師による体調管理やコンディショニング
患者さんが正しい知識を持つことの重要性
患者さん側も正しい知識を身につけることが大切です。
「何が特別良くて何が悪い」ということではなく、それぞれの専門性と限界を理解した上で、適切なタイミングで適切な専門家を選択することが重要です。
私自身がランニング中に足首を捻挫した際、専門家でありながらも冷静な判断を心がけました。
「軽い捻挫だろう」という先入観を持たず、まず整形外科でレントゲン検査を受けて骨に異常がないことを確認してから、信頼できる整骨院でのケアを選択しました。専門知識があっても、自分のことになると判断が甘くなりがちですが、この経験から改めて「まず正確な診断」という原則の重要性を実感しています。
連携治療の実際の効果
私がトレーナーとして関わった社会人ラグビーチームでは、チームドクター(整形外科医)、理学療法士、私(アスレティックトレーナー)、そして信頼できる整骨院が連携してアスリートケアを行っていました。
選手が怪我をした際は、まずチームドクターが診断を行い、重篤度に応じて治療方針を決定します。
軽度の捻挫であれば整骨院での後療法を、靱帯損傷が疑われる場合は病院でのリハビリテーションを選択するという具合です。この連携により、多くの選手が適切な治療を受け、早期復帰を果たすことができました。
症状別・段階別の最適な選択
急性期(受傷直後〜72時間)
必ず整形外科を受診すべき症状
- 明らかな変形や激痛を伴う外傷
- 意識消失を伴った頭部外傷
- 脊椎を痛めた可能性がある外傷
- 関節の完全な可動域制限
私がラグビーチームで経験した頸椎損傷疑いのケースでは、「軽く首を痛めた」という訴えでしたが
神経症状の可能性を考慮し、動かさずに救急搬送を要請しました。
結果的に重篤な損傷はありませんでしたが、初期対応の重要性を改めて認識しました。
回復期(3日〜数週間)
この時期は医師の診断に基づき、症状と生活スタイルに合わせて治療選択肢を検討します。
病院でのリハビリが適している場合
- 重篤な外傷で段階的な機能回復が必要
- 客観的評価に基づいた進捗管理が重要
- 他の疾患との鑑別が必要
整骨院での後療法が適している場合
- 軽〜中等度の外傷で医師の診断済み
- 手技療法による症状緩和を希望
- 通院の利便性を重視
維持期(数週間〜数ヶ月)
鍼灸院での体調管理が適している場合
- 器質的疾患が除外された慢性症状
- 薬物治療に抵抗がある
- 全身のコンディショニングを重視
私自身の経験では、整形外科での治療後も残存する慢性的な症状に対し、鍼灸治療が効果的だったケースがあります。
ただし、これは必ず医師による診断を受けた後の選択でした。
まとめ:協調と連携による最適な医療の実現
8年間の現場経験と整形外科での5年間の勤務を通じて私が最も強くお伝えしたいのは
**「怪我をしたら、まず病院で医師の診断を受ける」**ということです。
なぜなら、医師だけが「この怪我は何なのか」を正式に判断できる診断権を持っているからです。
どれほど技術の高い理学療法士や柔道整復師や鍼灸師でも、法律上は診断を行うことができません。
見た目には軽い怪我に見えても、実は骨折していたり、靱帯が切れていたりすることがあります。
正しい診断なしに治療を続けることは、時として症状を悪化させる危険性があるのです。
その上で、各職種の専門性を理解し、適切な連携により患者さんにとって最適な治療を提供することが重要です。
医療従事者同士が患者さんを「奪い合う」のではなく、それぞれの専門性を活かして手を取り合うことで
より良い医療が実現できると確信しています。
5歳の娘と4歳の息子を持つ父親として、また長年スポーツ現場に携わる専門家として
読者の皆様には正しい知識に基づいた冷静な判断をしていただきたいと思います。
「迷った時は医師の診断を」という原則を守りながら、各職種の専門性を適切に活用し
健康で充実したスポーツライフを送っていただければと思います。
何よりも大切なのは予防です。
適切なウォーミングアップ、クールダウン、そして自分の身体の状態を正しく把握することが
重大な怪我を防ぐ最良の方法であることを、現場経験を通じて強く実感しています。
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執筆者情報

エビ(Ebi LIFE | えびちゃんの気ままライフ 運営)
- ウイスキー・ゲーム・スポーツ観戦愛好家
- 日本スポーツ協会アスレティックトレーナー
- 健康運動指導士
- トレーナー歴8年(整形外科5年、大学トレーニングジム5年、チームトレーナー4年)
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