2025年8月23日、ニューヨークの象徴的なランドマークであるPier 17で、
ジョーダンブランド主催のU18 1on1世界大会「The One」ファイナルが開催されました。
この世界最高峰の個人技バスケットボール大会で、日本代表として出場した満生小珀選手(京都精華学園高校)と佐藤凪選手(東山高校)が、両名ともベスト4という快挙を達成。世界の強豪相手に堂々たる戦いを見せました。
本記事では、アスレティックトレーナーとしての専門的視点から、
両選手のパフォーマンスを詳細に分析し、この歴史的な挑戦が日本バスケットボール界に与える影響について考察します。
「The One バスケ」とは?ジョーダンブランドが描く1on1の世界
「The One」は、マイケル・ジョーダンの伝説的な競争精神を受け継ぎ、
世界中の15-18歳の若きバスケットボール選手を対象とした1on1専門の国際大会です。
2024年にパリで第1回大会が開催され、今回のニューヨーク大会が第2回目となります。
特殊なルール設定と戦略的意味
The One バスケの競技ルールは、通常のバスケットボールとは大きく異なります。
- 試合時間: 8分間
- ショットクロック: わずか9秒
- 勝利条件: 23点先取でKO勝利(マイケル・ジョーダンの背番号に由来)
- ポゼッション: 「メイク・イット・テイク・イット」方式
- 延長戦: サドンデス方式(1得点先取)
これらのルールは単なる演出ではありません。
9秒という極めて短いショットクロックは、選手に瞬間的な判断力と高度な技術を要求します。
また、得点者が攻撃権を継続できる「メイク・イット・テイク・イット」方式は、一度リズムに乗った選手が大量得点を奪える可能性を秘めており、メンタル面での強さが勝敗を大きく左右します。
The One バスケ 結果:日本勢の歴史的健闘
大会全体の結果
男子部門
- 優勝:テロン・ウィリアムズ選手(16歳、アメリカ・ロサンゼルス代表)
- 準優勝:ゼイン・オスマン選手(オーストラリア・メルボルン代表)
- ベスト4:佐藤凪選手(日本・東京代表)
女子部門
- 優勝:ローズ・シンプソン選手(17歳、アメリカ・ニューヨーク代表)
- 準優勝:タイア・マクメカン選手(オーストラリア・メルボルン代表)
- ベスト4:満生小珀選手(日本・東京代表)
世界22名の精鋭が集まった大会で、日本勢が男女ともにベスト4という結果は、まさに歴史的な成果と言えるでしょう。
決勝戦の激闘
男子決勝:テロン・ウィリアムズ vs ゼイン・オスマン
男子決勝は、ロサンゼルス代表のテロン・ウィリアムズ選手(16歳)とメルボルン代表のゼイン・オスマン選手の対戦となりました。結果は24-3という圧倒的なスコアでウィリアムズ選手の勝利。試合開始から圧倒的な強さを見せつけ、規定の8分を待たずにノックアウト勝利(23点先取)を収めました。
女子決勝:ローズ・シンプソン vs タイア・マクメカン
女子決勝は、地元ニューヨーク代表のローズ・シンプソン選手(17歳)とメルボルン代表のタイア・マクメカン選手の激戦となりました。結果は13-10でシンプソン選手の勝利。残り1秒でマクメカン選手に同点スリーポイントのチャンスが訪れる接戦でしたが、最後はシンプソン選手が逃げ切りタイトルを獲得しました。
佐藤凪選手:東山高校キャプテンの世界挑戦
詳細プロフィール
基本情報
- 氏名:佐藤凪(さとう なぎ)
- 年齢:17歳(高校3年生)
- 所属:東山高校(京都府京都市)主将
- 身長:176cm
- ポジション:ガード
- 背番号:4番
バスケットボール経歴
- 小学生時代:横浜ビー・コルセアーズU15でバスケを始める
- 中学時代:横浜市立大道中学校で全国大会出場、50得点ゲームを記録
- 高校時代:東山高校で1年生からレギュラー、3年時にキャプテン就任
主な実績
- U18日清食品トップリーグ:3年連続出場
- ウィンターカップ:2年連続出場、注目選手として活躍
- インターハイ2025:準々決勝で18得点の活躍も惜しくも敗退
- The One東京予選:準決勝・決勝ともにサドンデス制覇で優勝
東京予選での圧巻の勝負強さ
7月5日に開催されたThe One東京予選では、佐藤選手の真骨頂である勝負強さが遺憾なく発揮されました。
1回戦で新美鯉星選手を22-13で下した後、準決勝でドス サントス マノエル ハジメ選手との死闘が待っていました。
この準決勝は13-13の同点でタイムアップを迎え、サドンデス(延長戦)に突入。
極限のプレッシャーの中、佐藤選手が冷静に決勝点を決めて勝利しました。
さらに決勝では栗原咲太郎選手と対戦。
序盤で13-19と6点のビハインドを負う苦しい展開でしたが、残り時間わずかで驚異の追い上げを見せて21-19で逆転勝利を収めました。
この連続サドンデス制覇は、単なる運や偶然ではありません。
極限のプレッシャー下でも冷静な判断を下し、確実にシュートを決める技術と精神力の証明です。
世界大会での戦績:準決勝での惜敗
ニューヨーク本戦では、佐藤選手はプレイインラウンドを突破後、準々決勝も勝利して見事ベスト4入りを果たしました。準決勝では後に優勝することになるテロン・ウィリアムズ選手(ロサンゼルス代表)と対戦し善戦しましたが惜しくも敗退、最終成績はベスト4となりました。176cmという日本人としては決して恵まれているとは言えない体格で世界の4強入りを果たした意義は計り知れません。
現地メディアからは「サイズは小さくてもハートはMJ(マイケル・ジョーダン)のように大きい」「彼のミッドレンジジャンプショットは芸術だ」といった評価を受け、最後まで諦めない姿勢が世界中の観客に感動を与えました。
満生小珀選手:2年連続世界ベスト4以上という偉業
詳細プロフィール
基本情報
- 氏名:満生小珀(まんしょう こはく)
- 年齢:16歳(高校2年生)
- 出身:埼玉県(京都府に転居)
- 所属:京都精華学園高校(京都府京都市)
- 身長:165cm
- ポジション:ガード
バスケットボール経歴
- 8歳:ドリブル技術の練習を本格的に開始
- 中学時代:埼玉県で活躍後、高校進学を機に京都へ
- 高校時代:外部入学で京都精華学園高校に進学、関西弁を習得しながらチームに貢献
驚異的な実績
- 高校三冠達成:インターハイ、U18日清食品トップリーグ、ウィンターカップすべて制覇
- ウィンターカップ:3年連続優勝に貢献(1年時:シックスマン賞、2年時:ルーキーBEST5)
- The One 2024パリ大会:女子部門準優勝
- The One 2025ニューヨーク大会:女子部門ベスト4
- NBA Rising Stars Invitational(シンガポール):日本代表として出場
圧倒的な個人技術と成長の軌跡
満生小珀選手の最大の武器は、8歳から磨き上げてきた独自の「フリースタイル」ドリブル技術です。165cmという小柄な体格でありながら、その創造性あふれるプレースタイルで長身選手を翻弄する姿は、まさに芸術的とも言えるレベルに達しています。
特筆すべきは、埼玉県出身でありながら京都の強豪校に外部入学し関西の文化に適応しながらチーム一の技術力を発揮している点です。「最初は不安だった」と語る満生選手でしたが、持ち前の適応力でチームメイトとの関係を築き、偽関西弁も披露するほど京都の生活に馴染んでいます。
2024年パリ大会準優勝からの再挑戦
2024年のパリ大会で準優勝を達成した満生選手は、今回のニューヨーク大会でも素晴らしい戦いを見せました。
プレイインラウンドを突破後、準々決勝も勝利してベスト4入りを果たしました。
準決勝では後に優勝することになるローズ・シンプソン選手(ニューヨーク代表)と激突し、昨年の雪辱を期して挑んだ満生選手でしたが、シンプソン選手の堅実なプレーの前に及ばず敗退し最終成績はベスト4となりました。
それでも165cmという小柄な体格で2年連続の世界大会ベスト4以上という成績は、確かな実力の証明です。
東京予選では、1回戦で西本未来選手を22-11、準決勝で堀心優選手を23-6で圧勝し、決勝では杉山もも選手を相手に序盤0-8のビハインドから見事な逆転劇で21-18の勝利を収めました。この粘り強さこそ、世界レベルで戦える選手の証明と言えるでしょう。
アスレティックトレーナーが見た世界基準との差と可能性
ここからは、私がアスレティックトレーナーとして現場で培った知見を基に、今回の「The One バスケ」で見えた課題と可能性について、一般の方にもわかりやすく分析します。
1on1競技が選手の体に与える特別な負担
まず理解していただきたいのは、1on1という競技が選手の体に与える独特な負担です。
通常のバスケットボールと比較して、以下のような違いがあります。
短時間での激しい運動の連続
8分間という短い時間の中で、選手は全力ダッシュに近い強度で動き続けます。
これは100メートル走を何本も繰り返すような運動で、心臓や筋肉に大きな負担をかけます。
特に9秒という短いショットクロックは、「考える時間がほとんどない」状況を作り出し、体だけでなく脳にも大きなストレスを与えます。
急な方向転換と急停止の危険性
1on1では相手との直接的な駆け引きが多く、急激な方向転換や急ブレーキが頻繁に発生します。
これらの動作は、特に膝や足首の関節に大きな負担をかけます。
私がこれまで指導してきた選手の中でも、1on1練習中の怪我は通常の5対5の練習よりも多く発生する傾向がありました。
一人で戦うプレッシャーの体への影響
チームメイトに頼れない1対1の状況は、選手に強い心理的プレッシャーを与えます。
緊張すると筋肉が硬くなり、普段通りの動きができなくなったり、判断が鈍くなったりします。
佐藤選手が東京予選で連続サドンデスを制したのは、このプレッシャーに負けない強いメンタルの現れと言えるでしょう。
日本人選手の体の特徴を活かした戦い方
今回の大会結果を分析する上で、日本人選手の体の特徴を正しく理解することが重要です。
小柄な体格のメリットを最大活用
佐藤選手の176cm、満生選手の165cmという体格は、確かに国際大会では不利に見えます。
しかし、両選手ともに素晴らしい結果を残したのは、小柄な体格のメリットを最大限に活かしているからです。小柄な選手は重心(体の中心となるバランスポイント)が低く、急な方向転換がしやすいという特徴があります。これは車で例えると、背の低いスポーツカーがカーブを攻めやすいのと同じ原理です。満生選手の鋭いドリブルによる方向転換は、この物理的特徴を見事に活かした技術と言えます。
細かい技術の習得能力
日本人選手の特徴として、細かい技術を正確に習得することに優れているという点があります。
これは遺伝的な要素と、日本の丁寧な指導文化の両方が影響していると考えられます。
9秒という短時間での正確な判断力において、この特徴は大きな武器となります。
持久力と集中力の高さ
一般的に日本人は持久力に優れ、長時間の集中を維持する能力が高いとされています。
8分間という短い時間に思えますが、最高強度で動き続けるのは非常に疲れることです。
両選手が最後まで高いパフォーマンスを維持できたのは、この特徴が活かされた結果でしょう。
世界レベルに近づくための具体的改善点
今回の分析から、日本人選手が国際大会でさらに競争力を高めるための具体的な改善点が見えてきます。
瞬発力を高めるトレーニング
1on1では「一瞬の爆発力」が勝敗を分けます。
これを高めるために効果的なのが、ジャンプ系のトレーニング(プライオメトリクスと呼ばれます)です。
具体的には、ボックスジャンプ、バウンディング、スプリットジャンプなどを組み合わせたメニューです。
これらのトレーニングは、筋肉が「ゴムのように伸び縮み」する能力を高め、素早い動作を可能にします。
満生選手の鋭いステップバックや、佐藤選手の俊敏なドライブは、このような能力の高さを示しています。
疲れにくい体作り
8分間の高強度運動に耐えるための体力づくりも重要です。
これには有酸素能力(心肺機能)の向上と、疲労物質(乳酸など)に対する耐性の向上が必要です。
具体的には、30秒全力運動→30秒休息を繰り返すインターバルトレーニングや、坂道ダッシュなどが効果的です。
これにより、激しい運動中でも酸素を効率よく取り込み、疲労物質を素早く処理できる体を作ることができます。
プレッシャーに負けないメンタル作り
技術や体力と同じくらい重要なのがメンタル面です。
1on1という孤独な戦いでは、「自分ならできる」という自信が何よりも大切になります。
効果的な方法として、練習でも意図的にプレッシャーをかけた環境を作ることが挙げられます。
例えば、ミスしたら追加で腕立て伏せをする、観客を想定して声を出しながら練習する、などです。
また、イメージトレーニングや深呼吸法なども、試合でのプレッシャー対応に役立ちます。
怪我を防ぐためのコンディショニング
激しい1on1では怪我のリスクも高まります。特に膝と足首の怪我予防が重要です。
日常的にできる予防策として、片足立ちバランス訓練、足首回し、スクワットなどの基本的な動作を正確に行うことが効果的です。また、練習前後のストレッチや、筋肉の張りをほぐすセルフマッサージも怪我予防には欠かせません。
日本バスケットボール界への示唆と未来への展望
個人技術重視の指導の重要性
今回の結果は、日本バスケットボール界における個人技術育成の重要性を改めて浮き彫りにしました。
チーム戦術に偏重しがちな日本の指導現場において、1対1の技術向上により多くの時間を割く必要性が明確になったと言えるでしょう。
特に満生選手が示した創造性あふれるプレーは、「教科書通り」ではない自由な発想の大切さを教えてくれます。
指導者は技術の基本を教えつつ、選手の個性を伸ばす環境づくりに努める必要があります。
世界への扉としての価値
「The One バスケ」のような国際大会への参加は、単なる結果以上の価値があります。
世界基準での競技レベルを肌で感じ、異なる文化的背景を持つ選手との交流を通じて得られる経験は、選手の人間的成長にも大きく寄与します。
佐藤選手と満生選手という結果は、日本人選手でも継続的に世界トップレベルで戦える可能性を示しました。
これは後進の選手たちにとって大きな励みとなるはずです。
育成システムの見直し
両選手の成功例から、日本の育成システムにおける改善点も見えてきます。
特に、個人の特徴を活かした指導の重要性、国際経験を積む機会の創出、そして技術だけでなく精神面の鍛錬も含めた総合的なアプローチの必要性が明らかになりました。
まとめ:世界に挑戦する意義と次なるステージ
ジョーダンブランド「The One」2025世界大会における日本代表の健闘は、単なるスポーツの結果を超えた大きな意味を持っています。満生小珀選手と佐藤凪選手、両名のベスト4という成績は、日本バスケットボール界にとって歴史的な成果であり、同時に今後の可能性を大きく広げるものでもあります。
アスレティックトレーナーとしての視点から見ると、両選手の成功は偶然ではありません。
それぞれが持つ身体的特徴を最大限に活かし、技術と戦術、そして精神力を高い次元で融合させた結果です。
特に、体格のハンディキャップを創造性と技術で補う姿は、多くの日本人選手にとって大きな希望となるでしょう。
今後日本バスケットボール界がさらなる国際競争力を獲得するためには、個人技術の育成、体の機能的な強化、そして心理的なタフネスの向上が不可欠です。同時に、世界基準を知る機会の創出と、そこで得られた知見の体系的な共有も重要になるでしょう。
「The One バスケ」という舞台で見せた両選手の挑戦は、日本バスケットボールの新たな章の始まりを告げるものかもしれません。その挑戦の軌跡は、これからバスケットボールに取り組む若い世代にとって、かけがえのない道標となることでしょう。
165cmの満生選手が世界の舞台で2年連続決勝に進出し、176cmの佐藤選手が世界8強入りを果たしたという事実は、体格に恵まれなくても努力と工夫次第で世界と戦えることを証明しています。この事実こそが、今回の大会が日本バスケットボール界に残した最も価値ある遺産と言えるのではないでしょうか。
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執筆者情報

エビ(Ebi LIFE | えびちゃんの気ままライフ 運営)
- ウイスキー・ゲーム・スポーツ観戦愛好家
- 日本スポーツ協会アスレティックトレーナー
- 健康運動指導士
- トレーナー歴8年(整形外科5年、大学トレーニングジム5年、チームトレーナー4年)
現在は「Ebi LIFE | えびちゃんの気ままライフ」ブログを運営。
ウイスキー、ゲーム、スポーツ観戦を愛するアラサーパパとして、スポーツ科学の知見を一般の方にもわかりやすく発信している。
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