2025年8月16日(日本時間17日深夜2時)
サウジアラビアのリヤドで開催されるリヤド・シーズン・ボクシングは、日本のボクシングファンにとって特別な意味を持つ興行となります。この大会では、WBA世界フェザー級タイトルマッチでニック・ボール対サム・グッドマンという注目の一戦と、日本期待の堤駿斗による海外初戦が組まれています。
特に注目すべきは、ボールとグッドマンの両選手とも井上尚弥との対戦が将来的に噂されている選手であり
この試合の勝者が井上選手の階級アップ時の有力な対戦候補となる可能性が高いことです。
一方、堤駿斗選手にとっては世界王座への道筋を決定づける重要なステップアップ戦となります。
アスレティックトレーナーとして8年間にわたり様々な選手をサポートしてきた経験から、今回の興行の技術的見どころと、特に堤選手の海外初戦におけるコンディショニング面でのポイントを詳しく解説いたします。
ニック・ボールとサム・グッドマンの戦績分析
ニック・ボール:圧倒的前進圧力の体現者
WBA世界フェザー級王者ニック・ボール(28歳、22勝0敗1分13KO)は、現代ボクシング界でも稀有な存在です。
身長157cmというフェザー級では異例の低身長でありながら、その体格的ハンディを武器に変えて世界王座を獲得した選手です。
ボールの戦績で特筆すべきは、KO率約60%(13KO/22戦)という高い決定力です。
2024年6月にレイモンド・フォードからWBA世界フェザー級王座を奪取し、その後ロニー・リオス、TJドヘニーをいずれもKOで下して2度の防衛に成功しています。特に今年3月のドヘニー戦では、相手コーナーがタオルを投入するまで攻撃の手を緩めない執念深さを見せました。
ボールの最大の特徴は、異常なまでのワークレートです。
低身長を活かした低重心からの前進圧力で相手を圧倒し、近距離での連打で仕留めるスタイルは、まさに「レッキング・ボール(破壊球)」の異名通りです。また、2024年3月のWBC王者レイ・バルガス戦では2度のダウンを奪いながら引き分けに持ち込むなど、世界最高レベルでも十分に戦える実力を証明しています。
サム・グッドマン:技術と距離感の申し子
挑戦者のサム・グッドマン(26歳、20戦全勝8KO)は、ボールとは対照的な技術派ボクサーです。
身長約170cmとボールに対し13cmのリーチアドバンテージを持ち、中~遠距離でのボクシングを得意とします。
グッドマンは本来スーパーバンタム級で活動しており、井上尚弥への挑戦権を獲得していました。
しかし、スパーリング中の負傷により2024年末から2025年初めに予定されていた井上戦が2度延期となり、
その結果として階級を上げてフェザー級での世界初挑戦となりました。
グッドマンのKO率は約40%(8KO/20戦)とボールより低めですが、これは彼の戦闘スタイルが技術重視であることを物語っています。2023年のIBF挑戦者決定戦でラエース・アリームを破ったことで評価を高め、スーパーバンタム級で主要団体のランキング1位に位置付けられていた実績があります。
勝敗予想:両極端なスタイルがもたらす興味深い対戦構図
この対戦は、近距離を得意とするニック・ボールと中~遠距離を得意とするサム・グッドマンという、
まさに両極端のファイトスタイルがぶつかる興味深い構図となっています。
戦術的分析
ニック・ボール有利要因
- 3度目の防衛戦という経験値
- フェザー級での実績とKO率の高さ
- リヤド・シーズンでのホームアドバンテージ
- 圧倒的な前進圧力とワークレート
サム・グッドマン有利要因
- 身長・リーチの物理的優位性
- 技術的完成度の高さ
- 新鮮な挑戦者としてのハングリー精神
- 中~遠距離でのボクシング技術
個人的な勝敗予想
オッズではボール有利(1/4、-400)とされていますが、私個人としてはややニック・ボール有利と見ています。
ただし、サム・グッドマンが距離を支配し続けることができれば、
判定勝ちも十分にありえる、非常に勝負論のある試合だと考えています。
試合の展開は序盤の主導権争いが鍵となるでしょう。
ボールが得意のインファイトに持ち込めれば中盤以降のKO勝利が濃厚ですが
グッドマンがアウトボクシングに徹し、ジャブとフットワークで距離をコントロールし続けられれば、判定での番狂わせも考えられます。
そして何より、この試合の勝者は井上尚弥選手が将来的に階級を上げる際の有力な対戦候補となることを考えると、日本のボクシングファンにとっても非常に楽しみな一戦となっています。
堤駿斗の戦績と前回試合の振り返り
アマチュア13冠からプロ無敗街道へ
堤駿斗選手(25歳、7戦7勝4KO)は、2016年世界ユース選手権金メダル獲得をはじめとする輝かしいアマチュア実績(13冠)を誇る日本期待の若手です。アマチュア時代の戦績94戦88勝6敗は、世界レベルでの豊富な経験値を示しています。
2022年のプロデビュー以降、わずか3戦目で東洋太平洋フェザー級王座を獲得するという異例のスピード出世を遂げ
その後スーパーフェザー級に転向してからも快進撃を続けています。
前回アルバラード戦の重要性
特に注目すべきは、2024年12月の元WBA世界スーパーフェザー級王者レネ・アルバラード戦での8ラウンドTKO勝利です。
この試合では、元世界王者を相手に手数と正確性で圧倒し、8ラウンドにコーナーストップに追い込みました。
前々戦の元WBA世界バンタム級王者アンセルモ・モレノ戦(3ラウンドKO)では強打の左でダウンを奪う破壊力を見せましたが、アルバラード戦では戦術的な多様性を証明。相手に応じた戦い方を変える適応力の高さが、世界レベルでの成功を約束する大きな要素となっています。
これらの勝利により、堤選手は現在WBAスーパーフェザー級3位、IBF同級10位にランクされており、年内の世界タイトル戦が現実的な目標となっています。
アスレティックトレーナー視点:海外初戦のコンディショニング分析
環境変化が選手に与える影響
堤選手にとって今回最も重要な要素は、これが海外での初めての試合であるという点です。
アスレティックトレーナーとして多くの選手をサポートしてきた経験から言えば、環境の変化は選手のパフォーマンスに想像以上に大きな影響を与えます。
主な環境変化要因
- 時差と生体リズムの変化:日本からサウジアラビアへの移動による6時間の時差
- 気候の違い:8月のリヤドは気温40度を超える酷暑
- 食事環境の変化:普段摂取している食材や調理法の違い
- トレーニング施設の違い:器具の種類や環境の変化
- 観客の雰囲気:アウェーでの試合経験
神経質な選手が陥りやすい問題
私がこれまで指導してきた選手の中でも、神経質な選手は少しの環境変化で体調を崩してしまい、思うようなパフォーマンスが発揮できないケースを多く見てきました。具体的には以下のような症状が現れることがあります。
- 睡眠の質の低下による疲労蓄積
- 食欲不振による栄養不足
- 普段のルーティンが崩れることによる心理的不安
- 異なる湿度・気温による発汗量の変化
堤選手の有利な要素
ただし、堤選手に関しては安心できる要素もあります。
アマチュア時代に海外での試合経験を積んでいることは大きなアドバンテージです。
2016年の世界ユース選手権での金メダル獲得をはじめ、国際大会での経験は環境適応能力を高めているはずです。
また、リヤド・シーズンという国際的な興行では、選手のコンディション管理についても十分な配慮がなされると考えられます。トップレベルの医療スタッフやコンディショニングコーチが帯同することで、環境変化による影響を最小限に抑えることが可能でしょう。
対戦相手カイス・アシュファクの分析
対戦相手のカイス・アシュファク(32歳、13勝3敗1分5KO)は、2016年リオ五輪イギリス代表という実績を持つ元トップアマチュアです。しかし、現在の戦績を見ると直近5戦が2勝2敗1分と低迷しており、1年以上のブランクもマイナス要素となります。
アシュファクのKO率約38%(5KO/13戦)は決定力不足を示しており、技巧派ではあるものの堤選手の攻撃力に対応するには厳しい状況と言えるでしょう。サウスポーという構えは堤選手にとって対応が必要な要素ですが、アマチュア時代の豊富な経験があれば十分に対処可能な範囲です。
堤選手への期待:世界王座への最重要ステップ
いつも通りのボクシングができれば
技術的な実力差を考慮すると、堤選手がいつも通りのボクシングを発揮することができれば、問題なく勝利できる試合だと考えています。アルバラード戦で見せた手数の多さと正確性、モレノ戦で証明した一発の破壊力、そして何より相手に応じた戦術変更の柔軟性があれば、アシュファク選手を上回ることは十分に可能です。
世界王座へのインパクト
今回の勝利は単なるステップアップ以上の意味を持ちます。
リヤド・シーズンという国際的な舞台での勝利は、堤選手の世界的な評価を大幅に向上させるでしょう。
現在のWBAスーパーフェザー級3位というランキングから、年内の世界タイトル戦が現実的な目標となります。
次世代エースとしての責任
井上尚弥選手に続く日本ボクシング界の次世代エースとして、堤選手への期待は非常に高いものがあります。
今回の海外初戦での勝利は、その期待に応える重要な一歩となるでしょう。
アマチュア時代の実績、プロでの元世界王者2人への勝利、そして現在のランキングなど、すべての要素が世界王座獲得への道筋を示しています。環境の変化というハードルを乗り越えることができれば、堤選手の未来は非常に明るいものとなるはずです。
まとめ:歴史的な一夜への期待
8月16日のリヤド・シーズン・ボクシングは、複数の意味で歴史的な興行となります。
ニック・ボール対サム・グッドマン戦は、井上尚弥選手の将来の対戦相手を決める重要な意味を持ち、両極端なファイトスタイルの対戦として純粋にボクシングファンを楽しませてくれるでしょう。
一方、堤駿斗選手の海外初戦は、日本ボクシング界の未来を占う重要な試合です。
アスレティックトレーナーとしての経験から、環境変化という不安要素はありますが
彼の実力と準備状況を考えれば、勝利への期待は十分に持てると考えています。
日本時間深夜2時という時間帯ではありますが、これらの歴史的瞬間を目撃するため、ボクシングファンの皆様にはぜひとも観戦をお勧めいたします。特に堤選手の勝利は、井上尚弥選手に続く新たなスター誕生の瞬間となる可能性が高く、日本ボクシング界全体にとって大きな転換点となるはずです。
深夜の興行ではありますが、万全の準備でこの特別な一夜に臨み、歴史的な瞬間を共有できればと思います。
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執筆者情報

エビ(Ebi LIFE | えびちゃんの気ままライフ 運営)
- ウイスキー・ゲーム・スポーツ観戦愛好家
- 日本スポーツ協会アスレティックトレーナー
- 健康運動指導士
- トレーナー歴8年(整形外科5年、大学トレーニングジム5年、チームトレーナー4年)
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