2025年7月30日、横浜BUNTAIで開催される「U-NEXT BOXING.3」は
日本ボクシング界にとって歴史的な一夜となる可能性を秘めています。
寺地拳四朗、比嘉大吾、高見亨介という3名の日本人選手が同日に世界戦を行うトリプル世界戦は、極めて稀な出来事です。
日本スポーツ協会アスレティックトレーナーとして8年間
様々な格闘技選手のコンディショニングに携わってきた経験から
この3選手の技術的特徴と勝利への条件を詳しく分析します。
寺地拳四朗次戦の技術的優位性と課題
統一王者としての重圧と初防衛戦の意味
寺地拳四朗の次戦は、WBC・WBA世界フライ級統一王者として初の防衛戦となります。
対戦相手のリカルド・ラファエル・サンドバル(米国、26勝18KO2敗)は、WBC4位・WBA3位にランクされた実力者です。
私がトレーナーとして注目するのは、寺地選手の試合間隔です。
4月の阿久井戦から約4か月という期間は、フライ級選手にとって適切なコンディショニング期間と言えます。
この階級の選手は体重管理が最も困難で、長期間の調整が必要になるためです。
フィジカル面での優位性分析
寺地選手の最大の武器は、正確なアウトボクシングと堅固なディフェンス(打たれ強さ)です。
私が実際に軽量級選手を指導してきた経験から言えば
フライ級でこれほど完成されたディフェンス技術を持つ選手は稀有です。
特に注目すべきは、寺地選手のフットワークと距離感の取り方です。
軽量級では瞬発力とスタミナのバランスが勝敗を分ける要因となりますが、寺地選手は両方を高いレベルで維持しています。
椎野大輝トレーナーの「8ラウンド前後でストップ勝ち」という予想は
寺地選手の試合運びパターンを的確に分析した結果と考えられます。
実際、過去の試合を見ると、寺地選手は中盤から後半にかけて相手の体力を削り
決定的なチャンスを作り出すスタイルを確立しています。
ファンとしての率直な想い
正直な話、今回が防衛戦ということに少し物足りなさを感じているのも事実です。
寺地選手も33歳という年齢になってきており
ファンとしては価値のある選手や知名度のある選手との試合を見たいというのが本音です。
特に期待しているのは、一階級上のスーパーフライ級でのビッグマッチです。
ジェシー(バム)ロドリゲスやフェルナンド・マルティネスとの対戦
さらには井岡一翔選手とのドリームマッチなど、日本のボクシングファンが夢見る対戦カードがあります。


年齢を感じさせない驚異的なフィジカル
アスレティックトレーナーとして最も感銘を受けるのは、
寺地選手の年齢を感じさせないフットワークと無尽蔵とも言えるスタミナです。
33歳という年齢で、スピード感のあるフットワークを使ったアウトボクシングを
12ラウンド継続できる体力は、並大抵のトレーニングでは維持できません。
通常、格闘技選手は年齢を重ねるごとにパフォーマンスが低下していくものですが、
寺地選手がそれを維持し続けていることは、相当なトレーニング強度と質の高さを物語っています。
今回の試合でも問題なく勝利すると確信していますが、その過程での技術的完成度にも注目したいところです。
比嘉大吾試合における復活への道筋
階級移行に伴うフィジカル変化の影響
比嘉大吾選手の次戦は、WBA世界バンタム級王者アントニオ・バルガス(米国、19勝11KO1敗1NC)への挑戦です。
元WBCフライ級王者から約7年ぶりの世界王座返り咲きを狙います。
トレーナーとして最も注目しているのは、比嘉選手の階級移行への適応度です。
フライ級からバンタム級への移行は、約5ポンド(約2.3kg)の体重増加を意味します。
この体重増加が筋力向上につながっているか、それとも単純な体重増加に留まっているかが勝敗の鍵を握ります。
3戦連続世界挑戦のメンタル面での影響
比嘉選手は異例の3戦連続で世界王座に挑戦します。
通常、連続での世界挑戦は選手のメンタル面に大きな負担をかけますが、逆にモチベーションの維持には有効です。
私がこれまで指導してきた選手の中でも、
「3度目の正直」というメンタリティは非常に強力な原動力となることが多々ありました。
比嘉選手の場合、過去2回の挫折を経験したことで、技術面だけでなく精神面での成長が期待できます。
3戦連続世界戦への驚きと期待
正直なところ、比嘉選手の3戦連続世界戦には驚いています。
しかし、過去2戦を振り返ってみると、見方によってはどちらの試合も比嘉選手が勝っていてもおかしくない内容でした。
武居由樹選手との対戦、堤聖也選手との引き分けを経て、今回再び世界戦の舞台に立つことは十分納得できる流れです。
ファンとして、そしてトレーナーとして、今回こそは比嘉選手に世界王座を獲得してもらいたいという強い願いがあります。7年という長いブランクを経ての王座返り咲きは、日本ボクシング界にとっても大きな意味を持つでしょう。
WBAバンタム級の複雑な王者事情
仮に比嘉選手が勝利した場合、WBAバンタム級は王者が乱立状態となります。
先日、正規王者だった堤聖也選手が休養王者となり、暫定王者にはレジェンドのノニト・ドネア選手が就任しました。
比嘉選手が新王者になれば、まずは暫定王者のドネア選手との団体内統一戦が組まれるでしょう。
そして仮にその試合に勝利した場合、復帰した堤聖也選手との3回目の対戦という流れになると予想されます。
正直なところ、堤聖也選手との試合については既に2回戦っているため
個人的にはもうお腹いっぱいという感覚があります。
ただし、もし3回目が実現すれば、間違いなく日本ボクシング界で最も注目される試合の一つになることは確実です。
比嘉選手の進化した爆発的スピード
トレーナーとして注目しているのは、比嘉選手の一瞬で相手との距離を詰める爆発的なスピードです。
これは現在のバンタム級ではトップクラスの武器だと確信しています。
フライ級時代は、この爆発的なスピードを荒々しく攻撃的な部分で活かしていました。
しかし最近では、その同じスピードをポイントアウト(的確な攻撃でのポイント獲得)にも
効果的に活用できるようになっています。
この技術的な進歩が、比嘉選手の世界戦での勝算を大幅に高めている要因の一つです。
バルガスとの技術的比較
対戦相手のバルガスはリオ五輪米国代表の経歴を持つ技巧派です。
アマチュア出身者特有の基本に忠実なボクシングを展開すると予想されます。
比嘉選手の持つスピードと攻撃力に対し、バルガスの堅実なディフェンスがどう対応するかが見どころです。私の経験上、アマチュア出身者は長期戦を得意とする傾向があるため、比嘉選手には早い段階でペースを掴むことが重要になります。
高見亨介次戦での金星獲得の可能性
プロ10戦目での世界挑戦の意味
高見亨介選手の次戦は、プロ10戦目という異例の早さでの世界初挑戦です。
WBA世界ライトフライ級王者エリック・ロサ(ドミニカ、8勝2KO無敗)との対戦は
技術的にも非常に興味深い一戦となります。
ライトフライ級は、日本人選手が最も活躍している階級の一つです。
私がトレーニング指導において重視するのは、この階級特有のスピードとテクニックのバランスです。
ロサの2階級制覇実績への対応策
対戦相手のロサは「Mini PacMan」の異名を持つ技巧派で、既にミニマム級とライトフライ級で王座を獲得しています。
2階級制覇を達成している選手との対戦は、高見選手にとって大きな挑戦です。
椎野トレーナーの「高見が6ラウンド以内にKO勝ち」という大胆予想は、
高見選手のパワーとロサの技巧との対比を考慮したものと思われます。
実際、パワーファイター対技巧派という構図は、早い段階での決着がつきやすい傾向があります。
若手選手の急成長要因
高見選手の急激な成長には、現代的なトレーニング理論の導入が影響していると考えられます。
私が指導現場で感じるのは、近年の若手選手は科学的なトレーニング方法を早期から取り入れる傾向があることです。
特に、データ分析を活用した対戦相手研究や、栄養学に基づくコンディショニングは
従来の経験値重視の方法論から大きく進歩しています。
トレーナー視点での勝敗予想と観戦ポイント
各選手の勝利条件
寺地拳四朗
中盤以降のペースコントロールが鍵。
サンドバルの粘り強さに対し、技術的優位性を活かした判定勝ちまたは後半のストップ勝ちが有力。
勝率予想:75%
比嘉大吾
序盤のアグレッシブな攻撃でペースを掴むことが重要。
バルガスの堅実なスタイルに対し、持ち前のスピードを活かせるかが勝負の分かれ目。
勝率予想:60%
高見亨介
若さと勢いを武器に、ロサの技巧を上回るパワーとスピードを発揮できるか。
早い段階での決着が高見選手に有利。
勝率予想:50%
観戦時の技術的注目ポイント
- フットワークと距離感:特に寺地選手のアウトボクシング技術
- 体重管理の成果:比嘉選手の階級移行後のパフォーマンス
- パンチの精度とタイミング:高見選手の決定力
日本ボクシング界への影響
3選手全員が勝利すれば、日本ボクシング界の国際的地位は大幅に向上します。
特に、複数階級での同時王座保持は、日本の育成システムの優秀性を世界に示すことになります。
まとめ
U-NEXT BOXING.3は、単なるボクシング興行を超えた歴史的意義を持つイベントです。
3選手それぞれが異なる課題と可能性を抱えており
それぞれの戦いが日本ボクシング界の未来を左右する重要な意味を持っています。
トレーナーとしての経験から言えば、このような機会は選手のキャリアにとって一生に一度の財産となります。
技術的な分析以上に、この日の経験が3選手の今後の成長に与える影響は計り知れません。
7月30日18時からのU-NEXT独占配信により
より多くのファンがこの歴史的瞬間を共有できることも、日本ボクシング界の発展にとって非常に意義深いことです。
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執筆者情報

エビ(Ebi LIFE | えびちゃんの気ままライフ 運営)
- ウイスキー・ゲーム・スポーツ観戦愛好家
- 日本スポーツ協会アスレティックトレーナー
- 健康運動指導士
- トレーナー歴8年(整形外科5年、大学トレーニングジム5年、チームトレーナー4年)
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